「いのちの教科書」とも言われる闘病記。
看護学校の図書館には絶対置かれている、学校で読書感想文を提出する課題もある。どうして闘病記を読むことが大切になったのでしょうか。それには今までの医療の歴史を知ることから始まります。
もくじ
ナラティブ ベースドメディスンという考え方
昔から医療はEvidence−Based Medicine エビデンス ベースドメディスンと言われ、根拠に基づくことが質の高い医療を提供できる。という考えであり、それが故に根拠に基づいた医療に重きを置いてきました。
ところが、根拠というのは人間集団の中での「一般論」でしかありません。
もちろん根拠は大切。でも実際に病気になると、一般論で集められた身体的情報のみの問題ではなく、心理的 社会的から複雑に影響を及ぼしているということに、我々は気づきました。
そして、現在「narrative based medicine ナラティブ ベースドメディスン)という、語りに基づく医療が提案されたのです。
ナラティブとは直訳すると「物語」という意味。物語の筋書きや内容を指し「ストーリー」とは意味合いが異なります。ストーリーとは主人公を中心に起承転結で展開され語り手聞き手が存在しない。一方、ナラティブは私たちが自身が主人公であり、変化し続け、終わりが存在しない。
多くの人間を対象にした一般論から抽出された根拠ではなく、個人への関心、過去の物語を含めることが大切だということ。
同じ病気でも患者によって病気をたどる道が異なる、もちろん考えだって違うし、環境も違う。
そうした、たった一人の存在である筆者が深く濃い人生を描かいているのが闘病記。
病気や死との向き合い方を知るきっかけとなる、まさに「いのちの教科書」
闘病記を読むことで相手の気持ちを想像する力が身につき、より心に寄り添える力を育むことができることができます。今回は看護師に聞いた「ぜひ読んで欲しい闘病記」「心に残る闘病記」(全て実話)をまとめてみました。どうぞ参考にされてください。 →→Amazonでおすすめ闘病記を探す
看護学生に読んでほしいおすすめ闘病記 まとめ
「でもやっぱり歩きたい」滝野沢直子
「もしも、あなたがある日突然歩けなくなったらどうしますか」
看護師だった23歳の女性。ある日、窓から落ちて首の骨を折り頸髄損傷で寝たきりになり全面介助の患者になった。
看護師からある日突然患者となった女の子。素直な表現で心にスッーと入ってくる、話し言葉なのでとても読みやすい文章です。
車椅子生活から自立に向けての闘いを綴った手記となり、看護やリハビリテーションとは、患者にとって何なのかを根本から考えるきっかけとなると思います。
過去記事でも紹介してます。「でもやっぱり歩きたい」(脊髄損傷)
2015年に「マンゴーと赤い車椅子」アマゾンプライムで見る
元AKB48の秋元才加主演で描いたヒューマンドラマとして映画化されています。
「もしもすべてのことに意味があるなら がんがわたしに教えてくれたこと」鈴木美穂
2008年、24歳という若さで、乳がん(ステージⅢ)になったニュースキャスター。まさにこれからという時に、治療のために8ヶ月休職。
子どもの頃からの夢だった仕事も辞め、闘病生活へ。なんで自分だけが・・結婚もできないまま死んでいくんだと悲しみのどん底にいた彼女。
しかし、がんにならなければ、出会うことがなかった大切な仲間たち。愛する人。 そして、がんになったからこそ気づいたこと、学んだこと。
まさに本書の題名である「もしもすべてのことに意味があるなら」
がんにならなければ、子どもの頃から目指してきたテレビ局を辞めるなんて、きっと考えもしなかった。がんが視野を広げ、新たな可能性を見出してくれた。
「最後かもしれないと思うと世界が愛おしくなる」そんな毎日を実は毎日生きている。生と死が絶え間なく繰り返される医療界で心に刻みたい一冊。
私たちが普通に生きる今日という一日は、昨日生きたくても生きれなかった人の一日でもある。闘病記でありながら人として成長できる、毎日を充実したものにできること間違いない一冊です。
それでも今日が最後の日になった時、私たちはきっと強くなれる。
鈴木 美穂(すずき みほ、1983年10月16日 – )は、日本の元ニュースキャスター、報道記者。NPO法人マギーズ東京・共同代表理事。現在はがんを克服し、2019年大好きな旦那さんと世界一周旅行に旅立っています。
「閉じこめられた僕 難病ALSが教えてくれた生きる勇気」藤元健二
前向きですね と言われることに違和感がある。前以外にどこを向くのだろう。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは、発症すると身体のあらゆる箇所の筋肉が萎縮して徐々に身体が動かなくなります。手足だけでなく、話したり笑ったりもできず、最後は眼球だけが動くようになり、そして呼吸することすらできなくなってしまうという原因不明、治療法未確立の難病です。
安楽死・尊厳死という社会問題にもなっている。最近の2020年には嘱託殺人容疑により医師2名が逮捕された。医師らは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に罹患した女性から安楽死を依頼されていたというもの。
本に文章にして書くのは簡単だが、遥かに容易ではないのが生きるということ。永遠の金縛りと表現されるALSの怖さが感じとれます。
そしてこんな一見重たそうな本ではありますが、ユーモアがあり文才のある藤本さん。そんな藤本さんの人間味がわかるのこちら
だんだん好きになっていくことをやめた
探りを入れない 疑わない
そんな時間はもったいない
いきなり大好き I love you more
藤元健二
1963年 東京生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、食品関連会社等に勤務。
2012年 筋萎縮性側索硬化症(ALS)発症。
2013年11月 ALSの確定診断
2015年2月 胃ろう造設。
2016年4月 胃がん発覚。同年6月気管切開による人工呼吸器装着。
2017年3月31日 逝去
「112日間のママ」 清水健
看護学生だけでなく中学生・高校生の読書感想文によく選ばれる本です。友達や家族の大切さを改めて実感できます。特に、大切な人に「寄り添う」ことの 大変さを学べます。
・2013年5月19日、結婚
・2014年3月、妻の妊娠判明
・2014年4月30日、妻の左胸下の脇に近い部分に乳がんを発見
・2014年5月20日、手術、翌月より抗がん剤治療
・2014年10月、第一子(長男)が誕生
・2015年2月11日未明、妻が乳がんで逝去。享年29。
結婚生活は1年9か月。「ママ」でいられたのは、たった112日間だった。
恋愛の末、ようやく結婚。授かった命に喜んでいるときに母体に癌が発見。舞い上がるような喜びから、究極の命の選択を迫られる。
この本の題名を見た正直な感想は、残されたパパや子どものことも思うと出産を諦めてもいいんじゃないかと一瞬思ったりもしました。でも人は必ず死ぬ、それはいつかわからない。
時に残酷すぎる現実があって、神様がいるなら恨みたい。そんな気持ちになってしまっても、生きる勇気を教えてくれる一冊です。
「飛鳥へ、そしてまだ見ぬ子へ」井村和清
「人はいつでも幸せになれる。
それは、当たり前の幸せに気付いたとき。」
100万部以上のベストセラー作品
「死にたくない。生まれてくる子の顔を見たい……」不治の病に冒された青年医師が、最後まで生きる勇気と優しさを失わず、わが子と妻、両親たちに向けて綴った感動の一冊。自ら余命6ヶ月と診断し、命尽きるまで医師として従事した。
医療に携わる者、なんだか前が見えない日々で、生きていることが辛い人。そんな方にも読んでほしいと思います。
井村和清[イムラカズキヨ]
1947年、富山県生まれ。日大医学部卒業後、沖縄県立中部病院を経て、岸和田徳洲会病院に内科医として勤務。1977年11月、右膝に悪性腫瘍が発見され、右脚を切断。半年後に職場に復帰したが、まもなく肺への転移が見つかる。自ら「余命六カ月」と診断し、懸命の闘病生活を送りつつ、死の一カ月前まで医療活動に従事。周囲の願いもむなしく、1979年1月、長女・飛鳥を遺し、次女・清子の誕生を目にすることなく逝去
2005年 稲垣吾郎主演。若き青年医師が不治の病に冒されながらも理想の医療を追い求め、死ぬ直前まで強く生き抜いた実話の物語。
涙無しではみられない感動傑作。
飛鳥へ、そしてまだ見ぬ子へ~ ディレクターズ エディション DVDBOX ¥2,580
プライムビデオで見も見れます
「僕の死に方 エンディングダイアリー500日」金子哲雄
「え?つい最近までテレビに出てたよね」
このニュースにビックリした方も多かったと思います。急逝した流通ジャーナリスト金子哲雄さん。肺カルチノイドという病気に罹り、余命宣告を受けていましたが、周囲にそれを隠して最後まで仕事を続けると決めて、それをやり遂げました。
死期が迫りながらも、会葬礼状まで生前に用意して、自分の葬儀を自分でプロデュース。さらに自分の死んだ後のお墓や、葬儀を始めとする様々な終活準備を整えて旅立っていったのです。自らの死をも「流通ジャーナリスト」としての情報発信の場に仕上げました。
41歳という若さで余命宣告を受けてもなお行動力を落とさない金子さんの素晴らしい最後でした。生きて私たちにいろんな情報を届けて欲しかったお方です。
「こんな夜更けにバナナかよ」渡辺一史
筋ジストロフィーは、身体の筋肉が壊れやすく、再生されにくいという症状をもつ、たくさんの疾患の総称です。平成27年7月から、指定難病となっています。我が国の筋ジストロフィーの患者数は、約25,400人(推計)
参照:日本筋ジストロフィー協会
自分のことを自分でできないは生き方は、尊厳がないのだろか?
彼のワガママは 本当にワガママだろうか?
できない人助けてあげている。障害者だから不幸。
私たちはそんな上から目線で過ごしいることに気付く一冊です。本来は自分でできないことを、周りが助けることは人として当たり前のこと。人間社会では当たり前のこと。
これはワガママなのだろうか、人として尊重するとは?障害者は弱いだけの存在ではない、本来人は皆対等である。社会が抱える問題でもある、人権・人としての尊厳とは・・ということをじっくり考えたいときにおすすめ。
まとめ
闘病記は、壮絶すぎる体験から、本人しか語れない不安・悲しみを知ることのできる命の教科書。辛い気持ちが切実に伝わってきます。
もちろん絶望も語られていますが、むしろ前向きのものが多く、強く生きる力となります。今医療の教育現場での闘病記が注目されているのはこのためでしょう。